※ ページ11
コンコン、と扉が叩かれる。
きっと姉だ、ただいまも言わずに部屋に駆け込んだ。
ガチャ、と扉を開けると
心配そうに見つめる姉の視線を感じた。
『…ごめんね、大丈夫』
''なにかあったの？''
『ちょっと変な人に会って』
''変な人？''
『そ。でも大丈夫だから』
ご飯、作るね。
そう言って彼女の隣を通り過ぎた。
ナガヤマ、トム。確かそう名乗っていた。
『……全てを知っているって、どういうこと？』
きっとそれは、単純な言葉ではない。
彼はおかしい。
異常な程に、出会ったばかりの私に執着している。
やはりどこかで、出会っていた＿＿＿？
電車の中でプロフィール写真を見た時
何か既視感があった。
ナガヤマトム、25歳……。
唯一繋がると言えば、その年齢だ。
姉と同い年、だが知り合いにあんな男は居なかったはずだ。
彼女の周りにいるのは明るく、華やかな人間ばかり。
＿＿＿私と姉は、姉妹であることを疑う程大違いだった。
『いた、』
嫌なことを思い出した。
包丁が指をかすり、血が伝う。
『……なんなのよ、本当』
''僕は貴女を愛し、救う事ができます''
''僕達は同じだ''
彼の声が頭をぐるぐると回る。私を愛する？救う？
絆創膏を取りに行く途中、ふと庭を見ると
繁殖した大量のクローバー。
姉が高校生の頃だったか。
当時の恋人だか誰かに貰ってきた幸運の花。
「大切な思い出があるんだって」
思い出を共有してくれたみたいで素敵、と
頬を染めながら鉢植えを抱えていた。
そんな鉢植えは、事故後の引越し準備の時
庭に向かって投げ捨てられた。
悲しくもそれは枯れることなく繁殖してしまい
今ではこんなに咲いてしまった。
投げ捨てるほど不快だったのなら片付けよう。
そう思って掃除しようとした時もあったが
それを見て姉は泣き叫び、なにかに脅えたように発狂した。
だから私も、気付けば放置するようになり
今ではこのザマだ。
『…そんなに生えたなら少しは幸せにしてよ』
近付いて見ると、1番手前に咲いていた四葉のクローバー。
それをむしり取ってこぼした言葉。
三葉には愛、希望。
四葉には、幸運、約束＿＿＿。
所詮デタラメだ。
愛も希望も幸運も、この家…いや、私には無いものばかりだ。
絆創膏を指に貼りキッチンへ戻った。
むしり取った四葉のクローバーをポケットにしまう。
あんな気持ちの悪い男の事は忘れよう。
明日、また美鈴ちゃんに聞いてもらおう。
ひとつため息をついた後、
まな板の上に転がる野菜を切り始めた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 679人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
蒼(プロフ) - のんさん» 初めまして！よかったです…！😭吐夢くんの重さならきっとヒロインちゃんを1人逝かせることは無いよな…と思いニヤニヤしながら書いてました☺️笑とても素敵なコメントありがとうございます😭 (3月24日 11時) (
レス) id: 17192916b3 (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 更新ありがとうございます！元々の終わり方も好きでしたが、Another endの方も好きでした...！吐夢くんとなら地獄でもどこへでも行きたいですね← 最高でした...(語彙力なくてうまく伝えられずすみません😂) (3月24日 7時) (レス) @page37 id: 54603a8b2a (このIDを非表示/違反報告)
蒼(プロフ) - 零さん» ありがとうございます🍀✨好きなエンドが別れるかなと当方も書きながら思っていたので、Anotherの方で楽しんでいただけて良かったです…！素敵なお言葉ありがとうございました☺️🌷 (3月23日 16時) (レス) id: 17192916b3 (このIDを非表示/違反報告)
零(プロフ) - こんにちは。作品を一気に見て感想の方をコメントさせて頂きました。私、個人的にはAnother endが好きな終わり方だったな、と勝手ながら思いました。勿論、本編の方もドキドキしながら読ませて頂きました。素敵な作品を有難うございます。長文失礼しました。 (3月23日 16時) (レス) id: 46e0494878 (このIDを非表示/違反報告)
ニー(プロフ) - 蒼さん» あ、そうなんですね！分かりました！また機会があるときにお願いします！ (3月20日 11時) (レス) id: e747ca13ec (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蒼 | 作成日時：2024年3月4日 13時
